秘密の地図を描こう
09
「それで、昨日はいなかったんですか」
ニコルとミゲルが同行していたのならば心配はいらないとわかってはいるが、メモを見つけるまでは心配だった。レイはそう告げる。
「メールすればよかったんだけどね」
キラも苦笑とともにこう言った。
「ニコルの話だと、セキュリティにバグがあるって言う話だったから……」
ケーキを食べた後、三人でのんびりとしようとしていたところでその報告があったのだ。おかげで、その後、即座にコントロールルームに駆け込む羽目になった。
「……キラさんが優秀なのは知っていますが、こんな時まで、それを発揮しなくていいと思います」
ため息とともにレイはそう言う。
「お願いですから、どんなときでも連絡だけはしてください」
直接通話をしてくれてもいいから、と彼は続けた。
「俺は、あなたも失いたくないんです」
あの二人はもちろん、と言いながらキラの顔をのぞき込む。
「うん……ごめんね」
心配をかけたことだけは事実だから、と彼は素直に謝ってくれた。
「でも」
しかし、彼はすぐに言葉を重ねる。
「おかげで、もう少ししたらレイともシミュレーションできるかもしれないよ」
ここに端末を置くそうだから、と彼は微苦笑を浮かべた。
「本当ですか?」
「なんかね。ギルバートさんがそう支持したらしいよ」
何を考えているのか、と呟く彼にレイもうなずく。
「確認してみますか?」
どうしてそんなことをしたのか、と続けた。
「迷惑にならない?」
「メールぐらいなら大丈夫です。どのみち、週に一度はこちらの近況をメールしてますから」
キラのことも含めて、だ。メールなら時間を選ばないし、と彼は言う。
「何で、僕に直接聞かないのかな?」
毎日、データーを送っているのに……とキラは首をかしげる。
その理由もレイにはわかっていた。しかし、それを告げるとキラがふてくされるだろうことも想像が付く。
「俺が子供の頃からの習慣ですから」
だから、気にしなくていい……とごまかすことにする。
「評議会議員になってからはよく、留守にするので」
あの頃の自分は、いつ、症状が出てもおかしくなかったから、と言った理由も嘘ではない。
「それに、俺の楽しみなんです、これは」
にっこりと微笑みながらそう続けた。
「……なら、いいけど」
でも、とキラはぶつぶつとぼやいている。
「しかし、ここに端末を運び込むと言うことは、その間、キラさんはどこに?」
「どうなるんだろう。たぶん、寮全体が改修されることになると思うんだけどね」
ニコルの言葉であれば、とキラは続けた。
「それについても確認しておきます」
たぶん、家に帰ることになると思うが……とレイは言う。それが一番安全だろう、とも。
「でも、一緒に家で過ごせますね」
ここでは規制が多すぎるから、とため息をつく。それが必要だとわかっていても、やはりおもしろくない。
「まぁ、君が卒業しちゃえば僕も向こうに帰ることになると思うけど」
それとも、別の場所に行くのだろうか……と首をかしげる。
「その頃までには何とかします!」
プラント内だけでも、自由に歩けるように……とレイは言う。
「うん。期待している」
そう言ってキラが微笑んでくれた。それにほっとしたときだ。
『レイ! どこだ?』
廊下から自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
「……シン?」
何故、彼が……と思う。
「呼んでるよ。行ってあげないと」
キラがそう言ってくる。それでも、すぐにはうなずけない。
「下手に出ると、ここの場所に気づかれますから」
何よりも、せっかくのキラとの時間を邪魔されたくない……と心の中で呟いてしまうレイだった。